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トウモロコシ大百科連載開始!


トウモロコシ大百科メインビジュアル

一言で「トウモロコシ」と言っても、世の中には用途に合わせて進化を遂げた様々な品種が存在します。
「トウモロコシ大百科」では、世界中で生産されている多様なトウモロコシの品種を、その特徴や役割とともに解説していきます。
記念すべき第一弾は、世界の生産量の大部分を占める「デントコーン」です。

世界で最も多く生産されているのに、野菜売り場では見かけない不思議なトウモロコシ「デントコーン」。
私たちが普段食べているポップコーンとは何が違うのか、その驚きの実態と構造的な特徴に迫ります。


デントコーンって何??

デントコーンの写真

デントコーンは、世界で生産されるトウモロコシの大半を占める、もっともポピュラーな品種です。日本語では「馬歯種(ばししゅ)」と呼ばれます。

スイートコーンの背丈が1.5〜2メートル程度なのに対し、デントコーンは成長すると2.5〜3メートル以上にもなる非常に大型の植物です。
また、収穫される1本のトウモロコシも大きく、タネ1粒1粒にデンプンがぎっしりと詰まっています。

最大の特徴は、粒の形です。
英語の「Dent(へこみ)」という名の通り、粒の先端がペコッとへこんでおり、それが馬の歯のように見えることからその名がつきました。
この「へこみ」は、粒の部位によるデンプンの性質の違いから生まれます。粒の側面はガラスのように硬い「硬質胚乳」で覆われていますが、頭の部分から中心にかけては、粉っぽくて柔らかい「軟質胚乳」が詰まっています。
成熟して乾燥する過程で水分が抜けると、この柔らかい部分だけが大きく縮んでしまうため、頭頂部が内側に引き込まれて独特の「くぼみ」が形成されるのです。*1


日本で見かけないだけで、実は世界中で食べられている?

ポップコーンの種とタコス

日本では主に「牛や豚の餌」というイメージが強いデントコーン、実は多くの人のお腹を満たす立派な「人間の主食」としても活躍しています。

メキシコをはじめとする中南米では、数千年前からデントコーンが主食として栽培されてきました。
しかし、デントコーンの皮は非常に硬く、そのまま煮たり焼いたりしても消化に悪く、栄養も吸収しづらいという難点があります。

そこで生み出されたのが「ニシュタマリゼーション」という伝統的な知恵です。*2
デントコーンの粒を石灰水で煮込んで一晩浸け置くことで、硬い皮がツルッと剥がれ、さらにビタミンなどの栄養素が体内で吸収しやすくなります。

この処理をしたデントコーンをすり潰して生地を作り、薄く伸ばして焼いたものが、あの有名な「トルティーヤ」です。
タコスやナチョスといったメキシコ料理の力強い風味と香ばしさは、スイートコーンではなく、このデントコーンだからこそ出せる味わいなのです。


多彩すぎる用途:肉、ジュース、そしてエネルギーへ

デントコーンの真骨頂は、その「圧倒的な収穫量」と「加工用途の広さ」にあります。
私たちの生活は、姿を変えたデントコーンに支えられていると言っても過言ではありません。

  • お肉の源(飼料用): 世界のデントコーン消費の大部分を占めます。牛、豚、鶏を育てるための高カロリーな食事となり、良質なたんぱく質(お肉や卵)へと変換されます。例えば、牛肉を1kg生産するには、約10kg前後もの穀物(主にトウモロコシ)が必要だと言われています。*3

  • 見えない甘み(異性化糖): デントコーンから取り出したデンプンを酵素の力で分解すると、「果糖ブドウ糖液糖(HFCS)」という非常に甘いシロップが誕生します。砂糖よりも安価で冷たい液体に溶けやすいため、コーラやスポーツドリンクなど、市販の清涼飲料水の多くに使用されています。*4

  • 産業を支える素材(工業用・バイオプラスチック): 食品のとろみ付けやビールの副原料だけでなく、段ボールの接着剤、薬の錠剤の成形、さらには土に還る環境対応型の「生分解性プラスチック」の原料としても利用が拡大しています。*5

  • 地球を走るパワー(バイオ燃料): トウモロコシのデンプンを発酵させて作る「バイオエタノール」は、ガソリンに混ぜて使う環境に優しい燃料として、アメリカなどで巨大な市場を形成しています。*6

  • デントコーンは「ポップコーン」になれるの?

    これほど万能で、デンプンがたっぷり詰まったデントコーン。
    「フライパンで炒れば巨大なポップコーンができるのでは?」と思うかもしれませんが、結論から言うとポップコーンにはなりません。
    実際にデントコーンを高温で炒ると、どうなるか。皮の一部が少しひび割れたり、全体が焦げて硬い炒り豆のようになるだけで、あの白い雲のようなフワフワの形には膨らみません。

    その理由は、皮の構造にあります。ポップコーンが弾けるためには、粒全体を覆う「極めて強靭で厚い皮」が必要です。
    内部の水分が熱せられて水蒸気になっても逃さず、約9気圧(180℃付近)という凄まじい圧力に耐えきった瞬間に大爆発を起こします。
    一方のデントコーンは、頭の部分の皮が薄く、中身も柔らかいため、加熱しても内部に圧力を溜め込むことができません。限界まで耐える前に、蒸気が皮の弱い部分から「プシュー」と抜けてしまうのです。


    おわりに

    世界中で11億トンも作られ、食肉、工業、エネルギー、そして食卓を裏側から支える「見えない巨人」、デントコーン。
    その万能さを知ると、私たちが普段楽しんでいる「ポップコーン」という存在の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
    トウモロコシというジャンルの中で、ポップコーンは「圧力を溜め込んで弾けること」に特化した進化を遂げた、非常に特殊な品種なのです。

    同じトウモロコシでも、内部のデンプンと皮の構造が少し違うだけで、世界を支えるインフラにもなれば、愛されるスナックにもなる。
    そんな植物の奥深さを感じていただければ幸いです。



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    ≪参考資料:一覧≫
    *1:日本スターチ・糖化工業会 https://www.starch-touka.com/qa/
    *2:Google Patents https://patents.google.com/patent/JP2003534784A/ja
    *3:農林水産省「ニッポンフードシフト」 https://nippon-food-shift-maff-gov.note.jp/n/na3e42671c326
    *4:独立行政法人 農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000154.html
    *5:環境省 プラスチック資源循環 https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/bio
    *6:バイテク情報普及会 https://cbijapan.com/faq/technology/31/